■追憶の彼方から |
「ふぅ,ここなら景色も良いわね・・・」 私は,森の外れにある見晴らしの良い高台にいる. チームの予選日であったが,私は都合で参加できない. 今日は,姉の命日であり,私の誕生日でもあった. 本来なら予選提出日と重ならないはずだったのだが,予選の予定がずれて重なってしまったのである. みんなには,大事な用事があるので森に行って来るとしか言っていない. 理由も聞かないでいてくれたので,予選はみんなに任せ私は1人でここに来た. 「・・・じゃあ始めるよ?お姉ちゃん・・・」 私は,荷物の中から写真を取り出し,側の木に立てかけた. 「さて,仕上げにかかりますよ?」 「はーい,任せて」 「おっけ,こっちも良いよ」 IXYの言葉にYUKIとMachildaが答える. ここは予選会場. 今料理の仕上げに入っていた. 「予選ですから,あまり力入れなくても良いですよ」 というIXYの提案もあり,材料はクローだけというシンプルな物となった. だが,よもやクローだけで一通り作ってしまう所が恐るべきと言うべきか. クローの炊き込みご飯(細かく切っているので気にせず食せる?)クローの一夜漬け(しっぽが良いようです)クローのアラ煮(頭のくちばし部分を使った煮物です) そして,みそ汁と・・・和風な料理ができてしまうのだから謎です. 提出後,結果はと言うと・・・ 味の評判は上々で,現在,予選トップな評価がでていると言うことです. ま,まあ,遺跡の中では,まだまともな食材?と言えるのでしょうか・・・ 「はぁーっ・・・せいっっ!!」 私は普段大事にして,滅多に使わないツインブランドを演舞の様に振り回していた. 実践と同じステップで動き,斬り返し,斬撃の強弱など,もてる力を全て使ったものなので,流石に疲れる. 一通り済んだところで一息つくことにした. 命日には,私が日頃の成果を姉に報告することにしていた. 「はぁはぁ・・・どう?私も少しは近づいたかなぁ・・・」 写真の姉に向かって呟く私. 姉は私がまだ小さい頃に亡くなった. 今の私は,腕にはそれなりに自信があるが,それでもまだ姉には敵わないと思っている. それくらい,凄腕だったし,私がべったりな位甘えても優しく相手をしてくれた. しかし,人との別れは,好む好まざる関係なしに訪れる・・・ 「・・・ふぁ・・・ねむ・・」 心地よい疲れと,暖かい日差しは私を眠りへと誘っていった. そう,思いがけなくあの日の事を鮮明に思い出すことになる・・・ ---About 10Years Before--- 「お姉ちゃん!!明後日何の日か知ってるよね?」 「Thitoseの誕生日でしょ?忘れるわけないじゃない」 私がここ数日間幾度となく口にした台詞を,姉は嫌な顔1つせずに応対してくれる. 両親は苦笑しながら,この微笑ましい光景に幸せな表情を浮かべる. そう,この日まではどこから見ても幸せなただの1家族でしかなかった. だが,それは突然終焉を迎える・・・ 「・・は,はい.そ,それで病院は・・・はい.はい.判りました・・・」 次の日,母が取った1本の電話から全てが狂い始めた. 「どうしたの?」 私は何事か訪ねた. 「・・・良く聞きなさい・・・お姉ちゃん.事故に遭って,今病院で手術中だそうです・・・すぐに準備しなさい.病院に行きますよ」 その瞬間,正直私はあまりはっきりと実感することができなかった. だが,病院で手術が終わり,意識が戻らず面会できない状況になり,私は初めて心底怖くなってきた. (・・・あ,明日になったらきっと元気になってるよ.だって私の誕生日だもん.一緒にお祝いするって約束したもん・・・) 私は寒くないのに震えていた・・・ 「・・・はい,はい・・・我々も手は尽くしましたが・・・ええ.覚悟だけは・・・」 「そ,そんな・・・」 医者と両親の会話が聞こえた. 今になってみると良く判ってしまう内容だ. そのときはそれどころではなかったのだけど. ハンターズギルドの蘇生施設は,ギルド関係以外の用件では使用できない決まりだった. それを認めてしまうと,民間に秘密にしている技術が流出すると言うのが理由でもあった. それに,人の生死は軽く扱うものではない. 自然の摂理に反する蘇生は軽挙に行うべきではないのだ. 頭では判っていても,今思い出すと悔しいというか,何とも言えない気持ちになる. その日の夜,姉の意識が戻ったので,家族みんなが部屋に入った. 「お,お姉ちゃん・・・」 私は,それ以外声にすることができなかった・・・ 「・・・あ,父さん,母さん・・Thitose・・・ごめんね.心配かけちゃって・・・」 「しっかりしろ!!」 父が声をかける. 姉は手をよろよろと布団から出して,出して・・・その手は空中を彷徨った・・・ 「あ,あなた・・・うぅ・・・」 姉の目が見えない様だと言うことが判り,父は崩れそうな母を抱いている. 「お,お姉ちゃん.ここだよ,私ここだよっ!!」 私は手をそっととって頬に当てた. 「・・・Thitose.泣いてるの?いい加減私にべったりじゃなくても大丈夫な様になりなさい・・・」 気がつくと私も泣いていた. 「・・・もうすぐだね,誕生日.きっとプレゼント喜んでくれる・・・」 「そ,そうだよ.約束したもん,一緒にお祝いするって・・・」 「・・・去年は楽しかった・・・Thitoseったらケーキ食べ過ぎて,うんうん唸ってるんだもん・・・」 「うん.今年は,ゆっくり食べるから・・・」 「・・・Thitoseはいつもそう言っては同じことするんだよ・・・フフフ・・・」 姉は独り言の様に,いろいろと話を始めた. 今まで私と過ごしたことを鮮明に語ってくれた. そう,噛みしめるように,しっかりと・・・ 突然,ピピピピっと0時の時報が鳴った. 「・・・くぅ,こほっ・・・はぁはぁ・・・」 姉は突然苦しみ出した. 後で聞いたのだが,医者によると,もう限界をとうに超えていたということだった. そこまで耐えた理由は・・・ひとえに私との約束の為に他ならなかった・・・ 「はぁ,はぁ・・・Thitose・・・誕生日・・おめでとう・・・」 「お,お姉ちゃん,そんなことよりお姉ちゃんのほうが・・・」 「・・・さぁ,これを・・・ツインブランドを受け取りなさい・・・プレゼントです・・・」 そう言うと,姉は肌身離さず持っていたツインブランドを私にくれた. 何も持っていない手ではあったが,何を言いたいのかは判った・・・ だから,物自体は後で母から貰ったとは言え,このとき実際に貰った物と思っている. 「こ,これは・・・お姉ちゃん大事にしてた・・・」 「・・・あなたもハンターになるのでしょう?ならもう持っていても良い頃です・・・わ,私の全てを継いで・・・そして越えなさい・・・あなたならできます・・・」 「そ,そんなに喋っちゃ駄目だよ・・・」 みんな泣いている,私ももう駄目だった. 「あ・・・良く顔を見せて・・・そんな顔しないで・・・私を心配させないで・・・」 姉の目に輝きが少し戻った. その目は,私の顔をしっかり見つめている. 「・・・Thitose.ご免ね.お姉ちゃんはもう駄目です・・・だけど,あなたなら強く生きていける・・・そう,私の妹なんだから・・・」 「そ,そんな・・・」 「・・・父さん,母さんをお願いね・・・そして,ありが・・・とう・・・」 姉の手は私の手から離れた. そして2度と戻ることはなかった・・・ 「・・・お姉ちゃん!!!」 私は,はっと目覚めた. 「大丈夫ですよ・・・もうしばらく横になっていてください・・・」 暖かい声と感触を感じた. 「あ・・・IXYさん・・・」 気がつくとIXYが側に座っており,額に手を当てていてくれた. 私は目に涙が貯まっていたのだが,幸いこちらを向いていないでくれたので拭うことができた. 「・・・どうしてここに?」 「はい,予選もめでたく通過しましたので,みんなで報告に来たのですよ.すいませんでした.お邪魔してしまった様で・・・」 ばつが悪そうにIXYが言う. 他の2人ももうすぐ来るそうだ. 手分けして探している間に見つけたとのことである. 「ううん・・・私こそ,みんなに予選任せてしまってご免なさい」 「いえ,良いのですよ」 そう,人の縁とは不思議な物だ.別れがあれば出会いがある. 姉と別れた悲しさも当然あるが,こうして今を共有できる仲間が大勢いる. その関係もいつまでも続くかどうかは判らない. だが,それでもやはり,人は1人で生きていくのは辛い. 「あ,ちーちゃんここだったの?」 「ちーってば何処行ったかと思ったよ.決勝がんばろー」 YUKIとMachildaが声をかけてきた. 「ご免ね・・・あ,帰ろっか・・・」 私は起きあがり,写真を鞄に入れた. 決勝にでることも決まり,姉への報告も済んだ. 私は顔を上げ,新たな決意を胸に,パイオニア2へ帰ることにした. 追憶の彼方へ返ることが許される日は年に1度.今日だけなのだ・・・ -終- |