■ふとした出会い |
「誰です?私を呼ぶのは・・・」 私が振り返ると長身の女性が立っていた. 「私は,IXY(イクシー:フォマール)と言います.貴女も総督から任務を受けたのですよね?」 どうやら,ハンターズギルドの者らしい. 公表されこそしないが,優秀なハンター達に,総督からラグオル調査の指令が来ているのは,少しでも目端の利く者であれば知っている事だ. 私は群れるのがあまり好きではない.気性の問題もあるかもしれないが,ニューマンという特殊な立場が自分を自制させる. 今でこそ,表だった差別はないが,昔は非道かったと聞く. つまらないちょっかいをかけてきた者はその行動を後悔させてきた. またか,と思ったが,少し様子が違う様だ. 「えと,私,仲間を捜しているのですよ,今回の指令はただ事ではないですから・・・,あ,良かったらお名前聞かせて貰えますか?」 「Thitose(千歳)・・・見ての通り,ハニュエールです」 「ええ,それはもう,で,手伝って頂けませんか?」 「え,ええ・・・」 そんなことはお構いなく,話を続けるIXY.思わず返事をしてしまった. 少し調子が狂うと自分でも思う.良いとこのお嬢様か?と雰囲気は思わせるが,そんな者がハンターをやっているはずがない.外見だけで判断をするのは愚かな事だと,師には教わった. 「では早速,私の仲間に会って下さいね」 了承を得たと判断したのだろうか,手を引いてギルドの待合室へ連れて行かれた. まあ,嫌なら何時でも抜ければいいさと,そう考えていた. 待合室に行くと2人の男が待っていた. 2人共レイマーの様だ.だが,片方に見覚えがあると思った刹那,そいつから声がかかった. 「あ,姉御~.待ってましたよ~」 「お,お前はPoro・・・」 少し太ったこの男は,名をPoro(ポロ:レイマー)と言う. 以前,モンスターにやられそうになった所を助けて以来,私の周りに良く現れるようになった. お礼をしたいとか言っているが,そんな事の為に助けたわけではない. たまたま,居合わせただけの事だ. まあ.根は悪くないので気にはしていない・・・ 「その姉御と言うのは止めてと言ったでしょ」 「いやぁ,姉御は姉御ですから」 どうして,私の周りには人の話を聞かない者が多いのだろうか.思わず頭痛がする所にもう1人から声がかかった. 「俺はEQUSEL(エクセル:レイマー)だ.宜しく頼む」 Poroとはまた違うタイプのレイマーの様だ. その後しばらく,お互いに情報交換を兼ねたブリーフィングをした. チームを組む以上,相手の事はもちろん,自分の役目を各自がきっちり把握しないと逆に足を引っ張ることになる. 己が力に頼るだけの者はチームには向かない. 互いの足りない所を補えるのがチームの良い所・・・なのは知っている. 頭では判っていた.ただ,すぐになじめない自分の性格が足を引っ張る. 素直でないとはこういう事だろうか?以前にPoroの指摘されたことがある. その時は,気恥ずかしさもあってPoroをぼこぼこにしたが・・・. 「さあ,行きましょう」 そんな不安を払い飛ばすかの様に,にっこりとIXYが音頭を取った. その後,割と順調に近くの森の探索を終えた. まあ他の連中もいることだ,そうそう危険な事もない. 次に,私達はまだ調べていない洞窟を見つけたので,調査する事にした. 「姉御~,今日は良い天気ですぜ~」 Poroは私に気を使って色々話しかけてくれる. それは,まあ良いのだが・・・. 「いい加減姉御は止めてって.Poroが太っちょで,あと,やせたのがいたら何て呼ばれるか考えただけでもぞっとするのに・・・」 「ああ,母星で,遙か昔に放送していた子供向け番組の悪人さん達ですね~」 何故知っているのか?IXYがポンと手を打って言った. 続いて,EQUSELが言う. 「ああ,それなら確か3・・・」 「す,すとーっぷ」 私はこのチームにいることを後悔し始めたかもしれない. 一見堅物のEQUSELまで,そんな事を知っているとは. 頭が痛くなってきた. だが,そんな暢気なやりとりをいつまでも続けていられる程,ここは甘くない世界だ. 「敵だっ,散開しろ!!」 EQUSELの声がかかる前に,すでに各自,身体が反射的に動いている. 「姉御,見ててね~」 Poroが最近手に入れたというファイアーアームズを構える. 狙い過たず,敵に命中. 見た目はともかく良い腕になってきた様だ. 「ほぅ,良い銃だ.だが,銃の性能の善し悪しが戦闘の決定的差で無い事を教えてやろう」 そう言いつつ,EQUSELが良く手入れされたカスタムのレーザーを乱射する. 乱射と言うと語弊があるが,全て命中している. 狙いが付けにくいレーザーをあの早さで的確に当てる腕は大した物だ. 「Thitoseさん,援護しますからやっちゃって下さい」 IXYがシフタを唱えた直後ラフォイエにて敵を一瞬足止めする. おっとりした見かけによらず,的確なアシストだ. 「はぁーっ!!」 私は愛用のダブルセイバーをかざして敵に切り込む. 一瞬でもスキがあれば,複数の敵相手にも十分通用する武器だ. まして,IXYや,他の2人の援護の下,十分すぎる余裕があった. そんな戦闘が何回続いただろうか,ふとPoroが寄ってきた. 「姉御,いやThitoseさん.やはり仲間って良いですよね~」 満面に笑みを浮かべて話すPoroに,私は苦笑した. 「楽ができるからでしょ?」 「そかも」 そこへ他の2人も入ってきた. 「ふふふ,今だから言いますけど,実はThitoseさんを誘ってとPoroさんから頼まれたんですよ」 「・・・え?」 「あ,IXYさん,それは内緒って言ったのに・・・」 Poroが気まずそうにこちらを見る. 「まんざらThitoseも悪くないと顔に書いてあるぜ」 EQUSELが勝手に心を見透かした様な台詞を吐く. 全く,こっちが恥ずかしくなる様な事を平気で言う男だ. そう言えば,最初部屋に入ったとき,「待ってました」Poroは言っていたのを思い出した. 「まあ今更抜けるもなにもないでしょう?」 私は,この居心地の良さに気付いた自分が恥ずかしくなって横を向いて言った. 「姉御,照れてるよ,可愛いとこあるね~」 言ってから,しまったと口を押さえるPoro. だが,私はすでにセイバーの切っ先をPoroに向けていた. 「じょ,冗談ですよ~,ひー勘弁して~」 「ま.待てぇ~」 「ったく緊張感のないヤツらだ」 Equselが自分の事を棚に上げて言う. 「でもこれくらいのゆとりがないと,これから先やっていけませんよ」 IXYがまるで子供を見る母親の様に言う. ?待て,それじゃ,あの2人からして私達は子供なのか? くっ,そんなことは私のプライドが許さない.絶対撤回させてやる. だが,このこと自体,子供じみていると判るのはまた後日の事である. -終- |