■理想と現実 |
「にひひーにひひひ,わーいあはは~」 のっけから,奇怪な声を発しているのはIZUMI. だがパイオニア2内には,通称「いずみ笑い」と言われる「にひひ」が一部に流行っているというから驚きである. 「たっだいま~」 「「おかえりー」」 厨房でMAIとSesilが出迎える. ここは,ギルドメンバーなら誰でも使える専用の厨房である. 大会前の練習用として施設を拡張した物である. 大会に際し,3人は密かな野望を胸に抱いていた. 「ラグオル1のケーキ(お菓子)を作る」・・・と. パイオニア2には,その手の人には有名なケーキ屋さんがあった. 「こんな所にケーキ屋さんがあってごめんなさい」で有名な,アレである. 実はこのケーキ屋,代々続いている様で,古い記録では,とある惑星のダンジョンの中にあったと言う記録も ある. 「IZUMIさん,材料揃いました?」 「うん,揃ったよ.早速試作してみよ」 Sesilに答えるIZUMI. 「ここで試した成果が活かせるように頑張ろー,はむはむ」 MAIも何故か納豆巻きを食べながら準備完了?だ. 実は,3人の場所は遺跡だったのだが,同条件にしないと勝負にならないとの判断から,別チームの洞窟と交換して貰っていた. 「たっまおに,こむひ粉,えっせんす~♪」 IZUMIはハイテンションだ. 「卵に小麦粉ね」 ほいっと,MAIが卵を.Sesilが小麦粉を取り出す. 女の子3人が,わいわいお菓子を作る姿は可愛くもあり,微笑ましいと言えよう. 普通ならね・・・ 「・・・いくよっ・・・」 IZUMIが,ぱぐしゃぁと卵を割る・・・. 効果音でお気づきかもしれないが,見事に殻が粉砕され,黄色と白の見事なコントラストがIZUMIをデコレイトしていた. 「はうううー気持ち悪いー」 そりゃ卵を頭から被れば気持ち悪いでしょう. 「IZUMIちゃん,駄目だなー.私にやらせて」 MAIが挑戦する.こんこんとひびを入れて・・・なんと殻を剥き始めた. 当然中身はぶちまけられますね. 「あ,ごめんね.ゆで卵のつもりでやっちゃった.てへ」 「では,私の番ですね」 「Sesil大丈夫?MAIみたいにならないでね」 IZUMIは自分の事を棚上げして言う. 「はい,お二人の結果から対策を練りました.任せて下さい」 Sesilは,卵の先端を針でつついて穴を開けた. 少し穴を広げると,中から白身がとろーっとでてきた. 「「おおー,頭良いねー」」 2人が感心する. しばらくすると,白身は完全に取り出すことができた. ・・・黄身は? 「黄身でないね・・・」 MAIが言う.て言うか,最初から気付きそうな物ですがぁ. 「後は割るだけだから簡単だよ」 「「あ・・・」」 MAIとSesilが止める間もなく,IZUMIが殻を・・・ぱぐしゃぁと割る. 今度は黄身だけが飛び散る. 「・・・・ごめんね」 流石に悪いと思った様である. 「次は大丈夫だから」 懲りてないです,はい. 「・・・あ,はい,ちょっとお願いできますか?」 Sesilが何やら電話をしている. あれ?私の電話が鳴っていますね・・・お呼びですか? 数分後・・・ 「あ,Thitoseさーん.お呼びしてすいません」 「構わないわよ.で,何やってるのやら・・・」 私が現場に到着すると,厨房は惨劇に見舞われていた. 「「あ,こんにちはー」」 MAIとIZUMIが挨拶する. 一通りの説明を聞いて,私は出来るだけの手伝いをすることにした. 「卵はちょっとしたコツさえ掴めば簡単に割れるから・・・」 ぱかっと割って,ボールに入れる. 「「「おー,凄いですー」」」 「あ,あはは・・・」 これで感動されては,先が思いやられる様な・・・ 「で,これで白身と黄身を分けるの・・・ってこれは割るときに使うのだけどね」 さっき割ったのも含めて,エッグセパレーターで白身と黄身を分ける. 「白身だけだとクリーム作る時に泡立ちも良くなるし,後,何かと色々使えるからね.卵独特の風合いを残したければ,黄身はあまりかき混ぜない事も時には必要かな」 「「「勉強になるですねー」」」 3人は相変わらずです. 「あ,ごめんね.ちょっと用事あるの忘れてた・・・.後は本見て自分達でやってくれないかな?」 「はい,わざわざ来て貰ってすいませんでした」 Sesilがお礼を言う. 「また教えて下さいー」 MAIも嬉しそうだ. 「はー,シャワー浴びよ」 IZUMI.早く洗わないと固まって取れないよ・・・ 「じゃあまたね」 私は一抹の不安を覚えながらも厨房を後にした. 「味は何にしようかな?」 何とか一通り下準備が終わり,これから材料を混ぜ合わせようと言う段になってIZUMIが言う. 「やっぱり,チョコ?」 MAIが板チョコ食べながら言う. 「抹茶ですねー.これは譲れません」 Sesilが通な味を提案する.私も好きです. 「にょっほっほっ・・・ケーキと言えば,チーズケーキを置いて他になしっ!!」 IZUMIがぐぐっと拳を天に突き上げ力説する.確かに一理あると個人的には思います. とは言え,ケーキによっては材料違うのだけど,揃っているのでしょうか・・・ その後,議論が行われたが,決着は意外な形でついた. 「「「それぞれで作ってみれば良いんだよ!!!」」」 3人それぞれ作ってみて,一番おいしいので行こうと言うことになった様である. 中略・・・ 「・・・もうひくっ,食べられない・・ひくっ」 「あうーお腹いっぱいー,ひくっ」 「ひくっ,ひくっ.しゃっくり止まらなひくっ,ですー」 3人共食べ過ぎて,終いにはしゃっくりが止まらなくなった様である. 結局結果はと言うと・・・決まらなかった. 何故か?各自失敗したのを自分で平らげたので,相手のを食べる余裕がなくなったのである. 「「「・・・ひくっ.あはっ,ひくっ,あはははーひくっ.ふふふふ・・・」」」 3人は顔を見合わせて笑いあった. 別に誰の何を作ろうが,そんな事はどうでも良くなっていた. 一緒に楽しい時間を共有できた事だけで満足できたのだ. 他愛のない会話,やりとりで楽しいと思える人間が今どれだけいるのだろうか? 端から見れば,つまらない,取るに足らない事かもしれない・・・. 馴れ合いで,表面上のつき合いにしか過ぎないと言う者もいるだろう. だが,そういう者程,実は羨ましいという事実を隠しているに過ぎない. 周りにそういう人がいないことは不幸と言える. だが,そのせいばかりにするのはお門違いである. この3人のやりとりは,人の関係はまだまだ捨てた物ではないと言う証明であって欲しいと切に願うものです. -終- |